でいりーよみもの「新世界物語」75
今日でこの小説の連載は最後です
新世界物語
作:二ツ木 斗真
始まりの話(75)
「ジェフ、今回の遠隔会議の内容も、何時ものように『リーダーの1日』に掲載しますか」
「ああ、頼む。ただ、イサオ達のことはもうしばらく待ってくれ。まだ、存在は秘匿しておこうか」
「では、多絵達とのことのみということで、手配致します」
と返事をし、耳に手を当てて広報へと連絡を入れた。
それを受理した広報担当が、渋い顔をしながら思った。(独裁者気取りだな。合議で決めるという原則は一体どこへ行った?全てトップダウン方式で、俺達は手足の如く使われる一方だ。こんなことなら以前の体制と大差ないじゃないか。扱いが是正されれば疑問がない分、以前の方が楽だったかもしれんな)
胸の内に潜むこうした囁きを看過し続ければ、いずれ大きな不満のうねりとなって襲いかかってくるだろう。しかし、胸の内に留まっているならば、表に出て来た頃には対応が難しくなっていたとしてもおかしくはない。
為政者に求められるのは、実のところくすぶる不満の種を上手くあぶり出し、種の内に解消してしまえる能力なのかもしれない。残念なことに、ジェフ達は優秀な科学者の集まりではあったが、民衆の心の機微にまで想像力が働く人材に欠けていたようであった。
各所に小さな濁りが生じていた。にもかかわらず、
「今、この時に、今迄何百年もの間使われてきたある宗教家の生誕年を基準とした年号を12月31日付で廃ことをここに宣言する」と、告知されてしまった。
この時、世界政府が樹立され、世界共通の年号が定められ。人類は新たな一歩を踏み出したのである。
だが、多くの波乱を内在させたままの発進は、同時に新たなる混沌の始まりでもあった。
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